VOICE

「はい。これ。んで、ここに立って。そうマイクから離れすぎんなよ、音拾えないから。」




私は言われるがままに、ヘッドフォンをつけマイクの前に立つ。
隣では、一条君が慣れた手つきで、準備していく。



「聞こえる、二人とも?」ヘッドフォンをとして聞こえる監督の声に、私たちはうなずく。




「台本は36ページの5行目の恭弥のセリフから。練習だから口の動きとは多少合わなくてもいい。

イメージ掴むため、長回ししたい。とにかくいったんそのシーンの映像を見てくれ。」




私はバタバタとページをめくり、目の前の無音の映像と合わせて必死に台本を追う…




「奈々。緊張すんな。ほんとにお試しだから、失敗も成功もないからな。」

「うん。分かった。」




台本をめくる、映像を見る、そして自分の大好きな作品のイメージを高める…

顔も表情も演技は画面の桃ちゃんがやってくれる。
私は声だけに集中する…。私と映像の桃ちゃん…二人で「田中桃」を…





いつもとは違うお芝居の形だけど、集中力の高め方は一緒。私は大きく息を吐くと、「田中桃」になった。




「じゃあ、本番一発いくよ!」