VOICE

「おお!!それは助かる!君が桃ちゃんか…」
監督はじっと私を覗き込む。



「え?え?」いきなりの展開に全然頭がついていかない!!



「真奈美ちゃん。ちょっと出てきて。」
監督さんはマイクを通して、レコーディングブースの女性を呼び出す。




「まぁ、可愛い女の子。どちら様かしら?」

その人は雑誌で何度も見てきた人。現れたのは、田中桃の声優を務める、星野真奈美さんだった。



「TAKU君に、それにみんなも。お疲れ様です。」
栗色のボブを揺らして、挨拶する真奈美さん。女の子の私でもドキドキする仕草だった。




「真奈美ちゃん。この子が田中先生のイメージする桃ちゃんだって。」
監督さんがグイッと私を押し出す。




「まぁ!!そうなの!!助かるわ!!!」
真奈美さんは嬉しそうに私に近づいてきた。




「なるほどね…確かに…マンガの桃ちゃんによく似てるわ…」

「あの!私桃ちゃんに憧れてて!髪型とか意識的に似せてるので…参考にはならないかと…」
「あら、可愛い声!!なるほどね…うん。少しイメージわいてきたかも!」




「おい。奈々。」一条君がぽんと私の手の中に冊子を置いた。

「え?これって…」
「あぁ、最終話の台本だ。汚すなよ。」
「え?」




「監督、せっかく原作者の理想の逸材がいるんだ。一度試してみよう。」

「あ、失敗したテープがちょうどあるから、それはいいが…いきなり大丈夫なのかい?そこのお嬢さんは…」




一条君は私を見下ろす。
「奈々。芝居の経験は?」

「え?え?一応中学から演劇部…だけど!!無理!無理だよ!」

私は首をぶんぶん振る。




「いいから、別に本番使うわけじゃない。真奈美さんにイメージ掴んでもらうためだけだ。」




グイッと背中を押される。

「え?え?」

私は訳も分からないまま、一条君とレコーディングブースに入った。