「起きて…奈々…。」




う…うん…。
遠くで聞こえる愛しい声に返事をしながら、私は温かい布団の中で寝返りを打つ。




「ねぇ…奈々。早く起きないと、このカワイイ唇…食べちゃうよ…」




ガバッ。
「きゃあーーー!!!おはようございます!恭弥様!!!」




布団からすごいスピードで起き上がり、愛用のスマートフォンに飛びつく。そこから流れる大好きな恭弥様の着ボイスと画面いっぱいに表示される恭弥様のキラースマイルに、しばらくうっとりとする。




「あ!いけない!学校行かなきゃ!!」時計が7時を回ろうとしている。私は大慌てで、慣れない制服に着替えを始めた。




さて、自己紹介が遅れました。私、坂上奈々(サカガミナナ)と申します。ごく普通の高校2年生です。そして、この物語の主人公でございます。
これからどうぞよろしくお願いします!




時は4月、進級初日です。
そして実は私、今日から新しい高校に通います。
前の学校でいろいろあって…。



まぁ、その事情は追々ご説明いたしましょう。




「よし!これで完璧!」
私は紺のソックスを膝下までぐっと引き上げ、鏡の前に立つ。
ロングの髪を耳の下で二つに結んだ、お世辞にも大人っぽいとは言えない自分がこっちを見返している。




落ちついたグリーンのブレザーに、グレーのチェックのスカート。可愛らしいデザインだと思う。「さすが私立…」




身だしなみをざっと確認すると、私は壁一面に張られたポスターに笑顔を向けた。
「行ってきますね!恭弥様!!!」
ミルクティー色の髪をした二次元の王子様は、変わらない笑みを私にくれる。




快晴の空の下、私は学校に向かって飛び出した。




さぁ、ここまで読んできたみなさん、もうお気づきですね?




「恭弥様」の着ボイスで起き、「恭弥様」グッズであふれかえる部屋で身支度し、「恭弥様」のポスターに挨拶して家を出る。




そうです。私、いわゆる“オタク女子”というやつです。