あの日から三日目。
一昨日も昨日も森山先生は学校を休んだ。
どうして来ない。
来てくれなければ、行動にうつす事が出来ない。
もしかしたら、近所に住んでたかもしれない。
あの日帰らず後を追えばよかったと、今更ながらの後悔する。
今日来なかったら、いやこのまま来なかったどうする?
もし見てたとして、見たことを誰かに言ったら?ましてや警察にでも行かれたらボクの自由はそこで終わりだ。
あの日追いかけることに必死だった。
後ろなんて振り返りもしなかった。
だから、いつから後ろにいたかなんて、わからない。

やっとアイツから自由を手に入れたんだ。
暗くて狭いあそこから、出て来れたんだ。
早く先生をどうにかしなくてはいけない。
でも、出来ない。
この行き場のない想いが怒りになり、たまらなくイライラする。
今日は来るのかと思いながら学校へと向かう。
学校に着き教室に向かう。
いつも通りの朝だ。
チャイムが鳴り教室に先生が入ってくる。

森山だ!
今日は来たのだ。
やっと出てきたか。
先生に向かって『風邪大丈夫?』と、それぞれが質問する。
先生は大丈夫よ。と、優しい声で返事をしている。
ボクはただ黙って先生を見つめる。
避けてるのがわかる。
ボクが見てるのを先生は気付いてる。
なのに、気付かないふりをしてる。
やっぱり見たんだと、確信した。
確定したなら、あとは行動するのみだ。
でも、すぐにどうにかしてしまうのも可哀想だな…やっぱり確かめるか…。
どうやってしようかなぁ!?
考えてると授業が頭に入らない。まぁわかってるところだから、全く問題はない。

昼になり帰る時間になると、みんなが帰って行くなかボクは教室に残った。
先生と一対一になる為に。
いつも通りに廊下で一人一人に声をかけている。
声がなくなった。
先生が戻ってきた。
ボクに気付く。
今日初めてボクを見た。

いつもと変わらない笑顔で声をかけてきた。
「山科くんは、まだ帰らないの?」
「先生?」
「ん?なぁに?」
「どうしたの?手、震えてるよ。」
言われた先生は手で手を押さえる。
ゆっくりと距離を縮めていく。
「先生なかなか学校に来ないんだもん。ボク、寂しかったよ。」
「ん?どうして、何も言ってくれないの?」
先生は少しずつ後ろに下がっていく。
「ねぇ先生?あの歩道橋で何か見たの?」
「どうして、そんな事聞くの?」
「うわぁ先生、声も震えてるぅ!!」
おかしくて笑ってしまう。
「あれから学校に来ないから、どうしてかなって思ったの」
「それは、風邪で…」
消えそうな声だ。
「えぇ!聞こえない!?」
大声を出すと今度は先生の体が震えだした。
「あのね、先生…ボク考えたんだ。」
「なにを…?」
先生の背中に壁が当たる。
とたんに座り込んだ。
ボクはそのまま先生のそばへと歩いて行く。
「この教室で自殺するんだ。」
「駄目!山科くん、そんな事しちゃ駄目よ!先生と一緒に警察行こう?!」
お腹が痛くなるほど、大笑いした。
先生の顔が恐怖で崩れる。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「どうして?どうしてボクが死ななきゃならない?」
「えっ……?」
混乱が入り混じる。
「先生がこの教室で自殺するんだ。首を切ってね。」
後手に持っていたカッターナイフを見せた。
先生は首を激しく横に振る。もう言葉が出ないんだと思った。
「あぁ〜ぁせっかくの綺麗な顔なのに、ぐちゃぐちゃだよ。」
ボクはポケットからハンカチを取り出して、先生の顔を拭いてあげる。
「ボクって優しいでしょ!?」
笑ってみせる。
先生は一層泣き出すと話した。
「どうして、こんな事するの?こんな事してなんの意味があるの!!」
「だって、先生が邪魔になったんだもん。優しくて危害のない先生のままでいてくれれば、よかったのに、あの日ボクを追い掛けたりするから、結果こんな目にあってるんだよ!自業自得ってやつ。」

母親にいつも言われてた。
殴られたり蹴られたりするのは、お前の自業自得だ!って。

「先生は初めての担任で耐えきれなくなって死ぬんだ。ねっ?ありそうな理由でしょ?」
首にカッターナイフを当てる。
先生にボクの手を払う気力はなくなっていた。

「日向っっ!!」
勢いよく背後の扉が開いた。
ビクッとした。その拍子に先生の首元を少しカッターナイフが横に滑る。
じわりと血がにじみ出る。
振り返ると鏑木が息を切らし立っている。

「鏑木…さ…ん。」
安堵の表情で先生が言った。
「どうして正親兄さんがいるの?」
「日向…もうやめよう。お前は病気だよ。人を殺したり、そんなことしても心が痛まないなんて…。」
手を差し伸べながら、ゆっくり歩いてくる。
この手を取れば自由ではなくなる。
捕まりたくない。
とっさに走りだす。
「日向!!!」
廊下に出て校庭に出て、そのまま向日葵に走って行く。

向日葵について、自分の部屋に走る。
瞬がかけてきた、邪魔だと思い睨んだ。
体をビクッとさせて固まる。
部屋の引き出しから一枚の写真を手にして、再び出て行く。
ここはもうボクのいる場所じゃなくなったんだ。
居間に入ると誰もいない。
居間にある棚の引き出しをあける。
向日葵の財布があるのを、知っていた。
その財布を手に取る。
固まる瞬に声をかけた。

「瞬…こんなボクを好きになってくれてありがとう。」
ボクの本心だった。出てくる涙を拭った。
そのままボクは向日葵を出て行く。
もう戻れないと思いながら。
「バイバイ。」