あの日、あの後、


「っうぅ……ぐすっ……」


気が緩んだのか、雅さんの前で泣いてしまった。


「雪、泣くな。」


「だっでぇー、嬉しくて……涙が止まりませんー」



鼻水出ちゃうし、メイクは崩れるし、久しぶりの号泣。


あれはもう、乙女じゃなかった。


酷い顔だったと、我ながら思う。


「…俺、お前に惹かれてるのかもしれないな。」


「なんて言いました?今。」


ポツリと独り言を言った雅さん。


小さ過ぎて聞き取れなかった。


「いや、多分近い内にお前の事好きになるんだろうなって。」


「はいぃぃぃぃぃ!?
い、いいいい今なんて!?」


「やっぱお前バカ。
だから、好きじゃなかったら、こんな事しねぇっつーの。」


顔を近づけて来てキス………ではなく、私の涙をペロっと舐め取った雅さん。


「んなっ……!」


口をパクパクと魚のようにして、顔が真っ赤な私。


「口が鯉で、顔は金魚か……
水がねぇと死んじまう。」


いや、意味が分かりません。
何をおっしゃっているのでしょう。

変な所で天然発揮しないで下さい。


「…いや、こいつは人間だから人工呼吸か?……ん?
でも心臓動いてるし……あれか。」


いや、雅さん?


「あの…何を……」


水を口に含んで、そのまま私の方に近づいて来る雅さん。


「んぅ……ん……」


ゴクッ


「……こういうのも良いな」


色気全開で、飲みきれなくて口から出た水を親指で拭うその姿は、酷く妖艶だ。


「な、ななななんで」


何故だ。何故、どこから、どの辺から!?


今の会話の何処に、口移しで水を飲まなくちゃいけない要素があった!


「あ、やべ……更に顔が赤くなっちまった」