時が止まった。
唇と唇が触れたのは一瞬だったと思う。
けれど、その一瞬は、私にとってはすごく長かった。
ファーストキス、だった。
まさか、人前でされると思わなかった。
ペロリ、舌で自分の唇を舐めた雅さん。
見惚れる程美しく、妖艶だった。
「っーーーー!」
声にならない悲鳴を上げる。
「これで良いだろ。さっさと諦めろ。」
ゆでダコ状態の私。
雅さんはまるで何でもないような、涼しい顔をしている。
……気にしているのは、私だけ?
唖然とするしかない。
未衣ちゃんの方に目を向けてみると、呆れた顔をしていた。
愛美さんは、それはそれは般若の顔をしていて……
「ーーー白石雪!絶対に許さない!
後悔すんのはあんたなんだからねっ!」
悪役のセリフを吐いて、帰って行った。
「ギャハハハハハ!
雅…お前……ブクク……やるなぁ!
サイコーだ。」
愛美さんのお父さんはと言うと、目に涙を浮かべて爆笑している。
…娘が怒って帰ってしまっても関係ないらしい。
「………別に。」
「嬢ちゃんは気にしなくて良いぞ。
元々愛美の我儘で、無茶言ってやった形だけの縁談なんだ。
俺も最初からお前が愛美と結婚するなんて思ってないさ。」
「へ………?」
愛美と言っている事が真逆なんですが……
どっちを信じたら良いのか……


