昔々、桜の丘に1人の少女がいました。


少女には愛する少年がいました。



少年はいつも少女にこう言いました。




「なぁ、お前。大きくなったら俺と結婚しろよ?」



でも、素直になれない少女はいつもこう言いました。



「あたしはアンタなんかも結婚しないわよ。」






でも、そんなある日。


桜の丘で火事がおこりました。



美しく咲き誇っていた桜の木々は

逞しい炎へと姿を変えました。



でも、そんな炎の中へ突き進んでいく影がありました。







少年です。



少女は少年を必死にとめました。


「今、火の中に入ったらアンタが死んじゃうのよ。」




少女はそう泣き叫びました。




でも少年は

「俺はあの美しいこの丘の桜を守りたいんだ。」




ただひとことそう言って炎の中へと消えていきました。








しまばらくして火が収まった時、

少女は少年の原形をもとどめないなきがらを見つけました。




その時少女は自らの本当の心に気がつきました。




自分は少年を愛していたのだと。






そして少女は自らの言動を悔やみ、噎び泣きました。



少女が少年のなきがらを優しく愛撫したその時、





少女は一つの桜の初芽を見つけました。







そして、それからというもの、少女はその芽を大切に育てました。




生長し、若葉となり木となり蕾となった桜は


燃えるように美しい花を咲かせました。







それからというもの、この丘は“桜火”と名付けられたそうな。