「いや、そんなことないよ。」
「でも、結希さんのこと知らないのに勝手に…」
「…姉ちゃんが聞いたら喜ぶ。
あの人は叶わなかったと思ってるから。確かにそんなことないのにな。
努力しなかったわけじゃない、それは俺がよく知ってるから…」
「……」
結希さん。
「今度会ったら言ってあげてよ。姉ちゃんに」
「はい。」
夜景越しに結希さんの顔を浮かべた。
私の知らない結希さんや、直昭さんがいる。
声優になるまでの直昭さんを私は知らない。
それがいま改めて思い知らされた。
私は
直昭さんのことを知らない。
結希さんのことを知らない。
でも、知らないで終わりたくない。
「また結希さんに会いたいです。」
「うん、連絡しとくよ。」
「出来たら、その…直昭さんも一緒に会ってほしいんです。」

