「綾瀬さんのが優しいです。」 「…優しくないですよ。俺は、…」 綾瀬さんは、ゆっくり手摺から手を離し 軽くハンカチで手をふいた。 「……ずるいですよ。俺は、藤ノ宮さんが思うほど善人じゃないし、優しくないです。」 綾瀬さんは、私の頬に手を伸ばし なびいた髪を耳にかける。 びくっとして少し身をすくめてしまった。 「…いつも迷ってしまうんです。あなたに、触るとき。大丈夫かなって、」 「……っ 」 触れるとき。 脈が早くなる。綾瀬さんの声は低くて優しい。