病院の外装は、白いモルタルの壁だ。
その壁をキャンバスとして、まるで悪趣味な前衛画家が描いた作品のような光景が、ちょうど二階の開いている窓、つまり207号室、の上に展開されていた。
人体に蓄積されているあらゆる液体───血液、脳漿、リンパ液、尿、硝子体、唾液など───が白い壁に赤、黄、灰色、茶色などの様々な色をつけていた。
そしてその合間には、毛髪や歯、手足の爪、皮膚や肉片などが付着している。
私にも、分かってしまった。
「何か」が、己の体を壁にこすりつけるようにして、そこまでして屋上に登ったのだ。
私は、真っ白になっていく頭とは別の意思で今何をすべきか考え、そして、震える手で携帯を取り出し、病院内での緊急連絡用の番号に電話をかけた。
「……あら、絹枝(きぬえ)ちゃん。どうしたの?
この電話は緊急の時以外には…………」
長瀬さんの間延びした声は、かえって私に危機感を抱かせた。
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