「夢愛ってうざいよね」

「いっつも人の意見に合してばっかだしねー」

「へらへらしててうざいわ」

そう言って彼女たちは部室の中で笑っていた
その日、私は部活に行けなかった

「うぅっ、ひっく…」

涙が止まらない、あんな風に思われていたなんて
私は家に帰るわけにもいかず、とぼとぼと知らない道を歩いていた
すると人にぶつかってしまった

「あ、す、すみませ…」

「いえ、こちらこそ!…どうされました?」

「い、いえ、あの、こけただけですので」

私は下を向いて必死の弁解をしたけれど
その人には通じなかった

「ここ、僕のお店です、よっていきませんか?」

「へ?」

そう言って顔を上げると、優しく笑う男の人がいた
その人が、マスターだった
彼は私の手を引くとお店の中へと入れてくれた

「ちょっと待っていてくださいね」

私はそう言われて案内された席へと座った
彼はお店の奥から出てくると、オレンジを持ってきて
丁寧に切り始めた
切ったオレンジをミキサーにかける

「はい、どうぞ」

「あ…りがとう…ございます」

ストローから一口、出されたオレンジジュースを飲んだ
甘くて、少し酸味と苦みがあって…
でも、後味はさっぱりしている
冷たいのに、あったかい味だった

「何があったかはお伺いしません、ただ、きっとあなたは、色んなことを一人で背負っているんではと、思ったんです」

「…う、あぁっぁぁ…!」

私は誰もいないことを良いことに
大声で泣いた
迷惑ってわかっていても、涙が止まらなかった
彼は私の横に座ると優しく背中をさすった

「大丈夫、大丈夫ですよ」

そう言って、私が泣き止むまで
ずっと、隣にいてくれた

「あの、今日は本当にありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、あなたと出会えてよかったです」

私は泣いてすっきりした気分で
お店を後にした

「…明日、また来よう」

1人、そう呟いて、家に帰ることにした

「って、ここどこよ!」

私はあわててケータイでマップを開いて
自分の家への帰り道を必死で探した
そして、数十分後、何とか家へ帰ることができたのだった