「あ、柏木さん。
 お疲れ」

 向こうから三山さんがやってきた。


 厨房もきっと忙しかったに違いない。

 彼の髪とコックコートが、ちょっと乱れている。

 
 だけど。

 そんなくらいじゃ、この人のカッコよさは崩れない。



―――なんでこんなに素敵な人が、芸能界にスカウトされないんだろう。


 山岸さんに連れられて、初めて三山さんに会った時。


 あまりのカッコよさに、一瞬息を飲んだっけ。







 
「お疲れ様です」

 私は疲れていたけど、精一杯の笑顔を返した。


 私のすぐそばまで来た三山さんが、

「ホール、大変だったでしょ?」

 優しく微笑んで言う。


 
 優しい笑顔。


 優しい声。


―――何だか、お兄さんみたい。



 弟しかいない私は、そんな風に思った。