くすんだ灰色のワンルームマンションの1Fに、

お兄さんの部屋があった。



ドアを入ってすぐ、お兄さんは、

樹美とあやめをおいて、

トイレに入っていった。


「あがってて、いいよ」



あやめが、靴を脱ごうとしたとたん、

樹美は、急にあやめを外に、

押し出した。



「樹美ちゃん!?」


あやめは訳がわからず、叫んだ。



「来ちゃダメ!」



「樹美ちゃん!?」


ドンドンと、ドアをこぶしで叩く。


「樹美ちゃん!どうしたの!?」



ガチャンと、鍵をかける音がする。



「来ちゃダメ!帰って!」



あやめの足元に、脱げた片方の靴が落ちていた。

靴を履こうと、しゃがんだら、

灰色のコンクリートに涙がポトリと落ちて、黒い点ができた。



「どうして…」


後から後から涙が湧き出てくる。


あやめは、たまらなくなって、

泣き声をあげながら、走り去った。