生姜のいい匂いやチーズの独特の匂いが充満する詩織の部屋にドアをドンドンと力強く叩く音が響く。
その音はお弁当を作って無防備に二度寝をしてしまった詩織の耳にも入ってきた。
バッと体を起こした詩織は一瞬で今の状況を把握し、急いでリュックを背負い、キッチンの冷蔵庫の上に置いてあった二人分のお弁当袋を掴みドアを開ける。
「え......千堂さんっ......」
そういえば詩織には悲しい事だが遅刻をわざわざ知らせに来てくれる友達なんていない。
どうして千堂さんが...
口をぽかんと開ける詩織にしかめっ面の千堂は詩織の手首を掴み急いで階段を駆け下りた。
「おい!自転車の鍵!」
「えっ!は、はい」
リュックのポケットから取り出す詩織に遅いと言うように、
自転車の鍵を奪い取り、自転車の鍵を解除した千堂は詩織が持っていたお弁当袋をカゴの中に入れ、
詩織に急げと目で命令する。
千堂の素早い行動についていけてない詩織を置いて千堂は自転車を手で押し走っていく。
その後を詩織は追いかけた。
もちろん自転車に自分ひとりだけが乗るなんていう非道な事はしない千堂に少しなんか......
普通の事なのに千堂がするとなんか好感が持てる。
これがギャップなのか...



