別に「さよなら」とかそういう事を期待してた訳じゃないけど、何か言ってから帰れよ。
無意識に唇を尖らす詩織は、
2階へと続く階段を上って自分の部屋の鍵を開けた。
でも『家に入れろ』とか言うのかなと思ってたけど、言わなかったな。
ドアを閉めたと同時に「あっ」と声に出しある事を思い出した詩織。
スーパーに行ってないじゃん!
いつもは家に帰る途中でスーパーに行ってたから買った気分で、
帰ってきてしまった自分に少々恥ずかしくなりながら「あっ」と、
また何かを思い出した詩織は、
手がすぐ届く位置にあるリュックのポケットに手を突っ込みスマホを取り出す。
千堂を待っていた時に、こっそり調べてブックマークに登録しといたレシピを画面に出した。
よだれが出そうなくらい美味しそうなチーズと大葉の巻き揚げの写真。
でも美味しそうに見えるように写真を上手く撮ってるだけかもしれない。
上手く作るぞ!と意気込める程の料理の腕は持ち合わせていないので、
一応言い訳をしとき詩織は玄関のドアノブに手をかけたが、視界に入ったブレザーの裾で動きが止まった。



