そのアパートの敷地内には、
駐車場と大家さんの家があり、
不審者が入らないようにか、
アパートに入るためには道路に面する門扉がある。
その門扉は立て付けが悪かったのか、開けるとギギッと不愉快な音が周りに響くため、自然な防犯ブザー的な役割を果たしてくれている。
これで千堂とお別れだ、と少し胸が高鳴る詩織はいつも通り門扉の前で立ち止まると、千堂は先へと歩を進めていく。
「あのっ。ここですけど」
「おっ!そ、そうか...」
そりゃそうかと言ってしまいそうな光景にこみ上げてくる笑いを、
顔には出さずに声をかけると少し頬を赤らめた千堂が振り返った。
「ぷっ...」
赤くなっている顔を詩織に見られないようにそっぽを向く千堂に、
思わず笑いをこぼしてしまうと、
「わ、笑うな!」ともっと頬を赤くする千堂。
詩織の笑いと千堂の赤くなった頬が収まった頃、千堂が小さく呟いた。
「お前ん家ってアパートなんだ...」
「それってバカにしてますか?」
「ハァ!お前、自意識過剰過ぎだ!」
声を荒げる千堂を置いて駐車場脇に自転車を止めに行った詩織。
止め終えて千堂がいる門扉の方を振り返ると、千堂の姿なんて無かった。



