詩織は後ろで感じた声に背筋を震わせた。




完全にあの声だ...あのいつもの声。





今日朝早くに聞いた声なんだから間違えるわけがない、変な確信をした詩織は潔く振り返った。





「おはようございます」


「お、おはようございます...」





予想通り爽やかな笑顔の仮面をつけた千堂が立っていた。





「ちょっと制服のチェックを...」




そう千堂に促されたところは人目から少し離れた場所。




その場所で千堂は詩織の膝元近くに定規を当てる、だけで視線は目盛りではなく詩織の顔へ向いていた。







「......お昼時間、風紀委員会室にお弁当を持ってきて下さい」





千堂のひそひそ声の言葉に詩織はこう考えた。




じゃあ千堂の分だけ持って行けばいいんだよね。配達屋さん気分で......




「もちろんあなたの分もですよ。恋人同士なんですから...」



「はいはい。分かりました!」





自分の考えを言い当てられ不機嫌そうな返事をかえした詩織に千堂は周りを気にしながら注意する。





「...ちょっとあんまり大きな声出さないで下さい。面倒なことになっちゃうじゃないですか」





最後の千堂の言葉に詩織の胸に怒りがたまった。




面倒なことって......
それはこっちのセリフだ!


もし周りっていうか女子共にバレでもしたらこっちが嫉妬の嵐に巻き込まれるんだよ!







「もういいですかっ」


「はい、もう大丈夫です」




定規を持つ千堂の手を払うとまたも爽やかなイケメンを瞬時に被る千堂。




ムカつくのにキーホルダーのせいで逆らえないむず痒さに唇を噛みしめ詩織は教室へ向かうのだった。