陰陽寮へと続く渡殿を一人の少年が歩いている。名前は源 吉成(みなもとのよしなり)
。今年の春から陰陽寮に出仕した陰陽師見習いだ。ちなみに歳は十一。
その吉成は途方にくれた顔をしている。
それもそのはずで陰陽寮に入って三月程の現在、彼の評判はあまりよろしくない。

と言うよりはっきり言ってかなり悪い。

うぅ。まさか入って早々落ちこぼれと呼ばれるとは…。

そう、吉成は今では陰陽寮では知らぬ者のない落ちこぼれだ。
どうやら自分には陰陽師としての知識に大きな欠陥があり、度々周りを呆れさせているらしい。
そして本日とうとう…。

陰陽博士に呼び出されてしまったのだ。




「とうとうこの陰陽寮ともお別れかもな」

憂鬱そうにため息をついた吉成の隣から面白がるような声が聞こえる。
しかし今、吉成は一人である。
つまり他の誰かの声など聞こえるはずがない。明らかに怪しいその声に怯える様子もなく吉成は声のする方を見た。

誰もいないはずのその場所に…

一人の男が立っていた。

その男は明らかに異人の風体をしていた。髪の色こそ色素の薄いとは言え普通の茶髪だが。顔は彫りが深く、褐色。その上、彼の瞳の色は翡翠のような翠色だったのだ。
ちなみに衣装は唐と天竺風が混ざったような独特な格好をしている。