その日の夜。

あたしたちの前には、親子丼が並べられた。

ふわふわ卵が大好きなあたしにとって、親子丼は大好物だった。




「驚いたわぁ。
二瑚くんがナポリタン嫌いだったなんて」




親子丼を食べる二瑚に、お母さんが聞いた。

二瑚はにっこりと、営業スマイルを浮かべた。




「僕、ナポリタン好きですよ」




はい?

あたしは親子丼を食べる手を止めた。

そして、隣に座る二瑚を二度見した。




「あらそうなの?
幸来が二瑚くんはナポリタンが嫌いだなんて言いだすから」

「例え僕がナポリタン嫌いでも、おばさんが作ったのは食べますよ。
おばさん、料理上手ですから」

「あら。
二瑚くんは褒めるのが上手いわねぇ」




二瑚の裏を知らないお母さんは、もう満面の笑みだ。

対して二瑚も、営業スマイルを崩さないから、怖いものだ。




二瑚はナポリタン嫌いじゃない?

じゃあ何で、あの時いらないと言ったの?

あたしが作ったものだから?(チンしただけだけど)



あたし、二瑚の彼女なのかな……?

二瑚に馬鹿扱いされるし、学校でしか先輩と呼んでもらえないし。

タメ、もしくは二瑚より年下に思われてたりする?



何だか沈んだ気持ちになったあたしは。

親子丼の入ったどんぶりを片手で持ち、女子とは思えないほど豪快に食べ終えた。