電車の中は混んでいて。
幸来が痴漢されないよう、壁と俺の間に挟んであげる。
幸来は何か言いたげに俺を見るけど、すぐに俯いてしまう。
幸来は俺より背が高いけど、大きな差はない。
だから、幸来が俯いてどんな表情をしているかわからない。
電車の中で、幸来の可愛い笑顔をさらしたら。
普段痴漢しないような男でも、してしまうから。
それほど、幸来の笑顔は可愛い。
だから俺は、電車の中で、出来る限り黙るようにしている。
幸来は1人でベラベラ話すような女じゃないから。
電車を降り、すれ違いざまクラスの女子に会う。
挨拶されるから返すけど、正直
「お前ら誰?
気軽に俺に話しかけないでくれない?」
って思うのが現実。
でも、そんなこと言えねーし。
まぁ幸来と付き合っているのは有名だから、告白はあまりねーけど。
校内では幸来に敬語を使うようにしている。
周りの奴らは俺の本性を知らねーし、幸来は“年下男子と付き合っている”んだ。
年下にタメ口使われたのなら、幸来は周りの奴らから“舐められている”と思われてしまう。
だから俺は、出来る限り敬語を使い、彼氏らしい振る舞いはしない。
本当は俺だって、周りに見せつけるぐらい幸来のこと好きだって言いたい。
だけど、幸来は俺より馬鹿だけど年上であり、教室での立場がある。
だから俺は、年下を演じているんだ。


