それは、ある夏の日の出来事だった。

一日の仕事を終え、疲れていた俺は車に乗り込み家路を急いでいた。

家路に向かう途中、バイパスとぶつかる交差点で、右折をした。

右折しながら、バックミラーに目をやると後ろから猛スピードで煽ってくる白のスポーツカーに気が付いた。

俺は〔ちっ〕と心の中で舌打ちをし、右折が終わると片道二車線の道路の左に行き、道を譲ってやった。

スポーツカーは俺を追い抜くと、何故か左車線に車線変更し、俺の前を走り出した。

!?

突然スポーツカーのブレーキランプが点灯し、俺は慌ててブレーキを踏んだ。

ギリギリの所でスポーツカーとの衝突は防げたが、急ブレーキをかけたせいで助手席に乗せていた荷物が車内で吹き飛び、散乱した。

スポーツカーはまた勢いよく速度を上げていく。
車間距離が離れていく…。


「あのヤローっっ」


スポーツカーの行動に完全にキレた俺は、大声を出しながら車のアクセルを力一杯踏みつけた。

スポーツカーとの距離が詰まる。

そして、これでもかと言わんばかりに煽り返してやった。

!!

暫く煽っていたらスポーツカーのタイヤから白い煙が出始めた。
バーンナウトをしてきたのだ。

俺はますます腹が立ち、更に煽った。

すると、スポーツカーは車のハザードを点灯し、車を左に止めた。











スポーツカーが車を止めたので、俺もハザードを出し、車を左に寄せて止まった。

俺が車を止めるとすぐにスポーツカーのドアが開いた。

スポーツカーから20歳前後と思われる男が降りてきた。
肌は色白で、ロン毛のヒョロガリ君だった。

男が俺の車の脇まで歩いて来たので、車の窓を開けた。


「お前さっきからあぶねーんだけどっ」
男がおれに向かって怒鳴りつける。

「お前がな」
俺も負けずに言い返す。

「降りるん?」
男が俺に言った。

「降りねーよ」

俺がそう言うと、「へたれが」と言いながら男は自分の車に乗り込み物凄い速度で去っていった。


……………………………。

得体の知れぬ敗北感が俺の体を包み込む。



車から降りて、ヒョロガリ君に地獄を見せても良かったのだが、そんな事をしても1円にもならない上に、下手をすれば逮捕される。

大人とは不憫な生き物だ。

十代の時なら確実に喧嘩になっていたであろう場面でも我慢せざる終えない。


悔しい……。
やり場のない怒りで俺の体がみち溢れている……。


そこで登場、脳内シュミレーションッ!!

俺 VS DQN



まず、車から降りてきたヒョロガリ君に合わせて俺も車から降りる。

「お前さっきからあぶねーんだけどっ」

「お前がな」
先ほどのやり取りをし、ヒョロガリ君をおちょくり倒す。

我慢の限界に達したヒョロガリは俺を殴る。

ヒョロガリ君が俺を殴った事を切っ掛けに戦闘開始。


ヒョロガリ君の戦闘力が1なら、俺は10。
まず負けることはない。


ヒョロガリ君の長く伸びた髪を右手で鷲掴みにし、余った左手で顔面目掛け、左のストレートを一発。

俺の左ストレートを喰らったヒョロガリ君は軽く意識を飛ばす。

ヒョロガリ君の意識が朦朧としている隙に俺は、ヒョロガリ君の髪の毛を引っ張りながらスポーツカーの後方に移動し、ヒョロガリ君の車のトランクに顔面を打ち付ける。

俺の右手を外そうと、ヒョロガリ君が自分の手を持ってきてもがくが、髪の毛を掴んでいる手はそう簡単には外せない。

そのままヒョロガリ君の顔をトランクに50発位打ち付ける。

ヒョロガリ君の歯が地面に散らばる。

ヒョロガリ君の歯が折れたのに気付いた俺は、掴んでいた髪の毛を離す。

ヒョロガリ君はズルズルとスポーツカーに血の筋を描きながらアスファルトの上にうつ伏せに倒れた。

どうやら失神したらしい。

「糞ガキがっ」
そう言うと、ペッっと倒れているヒョロガリ君の背中に唾を吐きかけた。

!!

異臭が鼻をついた。

殴られ過ぎたヒョロガリ君が脱糞していた。



はい!!脳内シュミレーション終了。

俺 VS DQN

俺の勝利で幕引きでございます。
チャンチャン。