「皐月が絵が好きってイメージ通りすぎるな」
「そう?」
「なんで絵が好きなの?」
「…、」
なんで?理由を聞かれると戸惑う。
どうして絵が好きなんだろう…
「…わかんない。たぶん、母さんが好きだったからその影響じゃないかな」
「あー、なるほど」
母さんは画家になりたい、と言うほど絵が好きだった。描くのも好きだし、見るのももちろん好き。うちにはなかったけど母さんの実家にはたくさんの絵画が飾ってあったそうだ。それに、有名な美術館の近くに住んでいたから毎日のように通っていたらしい、と兄貴から聞いた。
残念ながら、わたしにはあまり母さんが言ってた記憶がない。
「…母さんは、画家になりたかったんだって。絵を描いてるとこは一度も見たことがないけど…」
「へえ…」
平日で人の少ない美術館では、小さな声も響く。だけどここには、隅のソファーでうとうとしているおじさん以外はわたしたちしかいない。話しても迷惑にはならないだろう。
「どうして母さんは絵をやめたんだろう、って思うの。何か残してくれればよかったのに…」
母さんの形見は結婚指輪だけだ。他はわたしの知らない間に何もなくなっていた。遺品の在処は兄貴が知っているかもしれないし、父親が処分したのかもしれない。継母が来た時には、わたしが兄貴から譲り受けた結婚指輪以外もう何もなかった。
その結婚指輪は、大事に大事にしまってある。
父親とあの人だけには見つからないように…



