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ピンポン、と音がして、玄関を開ける。時間なんかは決めていないけど、やっぱり最初に出向いてくるのは彼だと思っていた。
「…よう。ちゃんと食ってる?」
「食べてるよ。」
彼が作り置きしていったおかゆは今朝、なくなった。
「…意外と大丈夫そうでよかった。」
「うん…。兄貴がね、帰ってきたの。だから落ち着いた。」
「帰ってきたのか?よかったな」
わたしがあんなに兄貴に精神的に依存していることは知らないだろうから、普通にただ一人の兄が外国から帰ってきてよかったな、って感じなんだろう。
わたしの依存っぷりは今回自分で実感した。これから改善していかなきゃならない課題の一つだ。
「優衣からは、さっき家出たって連絡があった。あと30分くらいで着くんじゃないかな。」
「ふーん。秋とは?連絡とらねぇの?」
「…個人的な連絡なんて、とってないよ。」
それこそ、高校卒業して以来。とってないと思う。それに高校生の時だって優衣に関する相談ごとを聞いていただけだ。わたしたちの間には親密になる余地なんて1ミリもなかった。
「……いろんなことを諦めれば生きるのは楽だと思ってたんだけどな。」
生きてみたら、そうでもない。
諦めきれないから苦しいのか、諦めてもキリがないから苦しいのか。全てを諦めてしまうことなんてできないから生きるのは辛いんだろう。
「…生きてなきゃ、幸せにもなれねぇぞ。」
「そうだね〜…」
わたしは、幸せになるために生まれてきたんだ、と昔は思っていた。
母さんがいて、兄貴がいた頃。あの頃は夢のように幸せだったと思う。父親なんてわたしにはいらなかったし、今でも必要ない。わたしの人生にあの人は不要だ。
「…わたしには、兄貴と優衣さえいればいいと思ってたけど、そうでもなかったのかな。」
あれは手の届かない理想に対するただの憧れだったのかもしれない。いや、今も憧れてるか。



