この気持ちは、気付かれない。





ふ、と意識が戻る。気付けばスマホが大きな音をたてていた。一体誰だ。



「…もしもし、」

『allô,ma bien aimée.』

「…Allô…くそ、あにき?」

『あらあらどーした?何があったの?そーんな弱った声出しちゃって。』




なんて、タイミング。こんなタイミングで兄貴から電話がかかってくるなんて…。この人は何かわたしに発信機でもつけてるんだろうか。




『元気ないね。どしたの?』


ふざけたフランス語の挨拶から打って変わって、本当に真剣な声色になる。

わたしの声ひとつで、バレてしまうのか…




「大丈夫よ。電話なんてめずらしいね。」

『…そーだな。ごめんね?あんまり連絡しなくて。』

「ううん、この間葉書が届いたよ。」



ガラガラガラ、とキャリーケースを引きずる音がする。どこかの道を歩いているらしい。



『あーカッパドキアのやつ?すげー景色だったからさ、皐月にも見せたくて。』

「うん。感動した。」

『もっとビックリさせられるサプライズがあるんだけどさ?』

「ん?サプライズ?」

『そー。元気のない皐月ちゃんに、いつも頑張ってるご褒美的な?』




ゆるい声に、なんだか気分もほぐれてくる。

サプライズってなんだろう。お土産でも届くんだろうか。



次の言葉を待っていると、かんかんカンカン、と金属音が聞こえた。


「兄貴?どこ歩いてるの?」


金属音、なんて。危ないところじゃないよね?


『あー大丈夫。危なくなんかないよ。ははっ、心配性だねえ。よーっし、準備完了。』

「なんの、準備…?」

『(ピンポーン)』



電話口の音と、うちの玄関のベルの音が重なった。

え、え?まさか、まさか……



「皐月ー早く開けて。荷物重いんだ。」


信じられない気持ちのまま、役立たずな足腰を引きずって玄関に向かった。

嘘!嘘!嘘!兄貴が、帰ってきた?!