付き合い始めてから気付いた事だけれど、桐生君は強いようで、脆い。
普段は誰にも中身を悟られないようにしているけど、ふとした拍子に瞳が揺らぐ。冷たい瞳に変わったり、悲しみの色を宿したり。
「…悪い」
空気を悪くしたと感じたのか。
哀切を催す瞳を一瞬で通常通りに戻した桐生君は、少し苦笑をしながら肩を竦めた。
「わ、私もね、今日、調理実習だったの」
桐生君らしくない顔を見たくなくて、慌ててポケットからクッキーを取り出す。あげる相手もいないから、ずっとポケットに仕舞ったままだった。
「…何で黒いんだ」
「チョ、チョコレートだよ!」
「…ああ、」
一瞬この世の終わりと言わんばかりに目を剥いた桐生君に、むきになって言い返す。

