そしてふと私は彼の傍に置かれた包みに目がいく。
星型やハート型のお菓子の入った包み。
それは数時間前に私も作ったものだった。
「それ、クッキー?」
何気なく聞いたこと。でも桐生君が罰の悪そうな顔をしたことで、聞いてからすぐ後悔した。
今日、調理実習があるのは私達B組とE組だけらしい。大方その中の誰かから受け取ったんだろう。でも桐生君が物を受け取るのは珍しい。バレンタインデーですら女の子を寄せ付けず、その日一日不機嫌で、誰も渡せなかったと聞く。
なら、このクッキーは"断れない人"から貰った物。
「…ああ。幼馴染みから、貰った」
躊躇いがちに紡がれた言葉に、やっぱり聞いてはイケない事だったと思った。
だって桐生君の瞳は悲しそうで、でも何だか諦念が混じった海底のような色合いをしていたから。触れたら最後、引き摺り込まれてしまいそうな深い深淵を双眸に耐えている。
ーーああ、きっとその幼馴染の女の子が桐生君の想い人だったんだろうな。じゃなきゃ、そんな痛々しくて愛おしそうな顔しないもん。
何だか、私まで胸が痛くなってきた。

