小走りで屋上に辿り着けば、誰も居なかった。



「…普通は、そう、だよね」



私は何を期待していたんだろう。


当たり前だった。桐生君だっていつもここにいるわけじゃないんだから。馬鹿みたい、勝手に縛り付けようとしてるなんて。


くしゃりと顔を歪ませる。目を覆っているのは、堪えてきたものが崩壊しそうだから。今にも溢れだしそうで、必死に耐える。じわりと熱くなる目頭に、また泣いてしまいそうだと思った。




ーーーガチャ、

視界を膜が覆ったとき、屋上の扉が開く音がした。


ーーーカツン、

誰かが屋上に足を踏み入れた音に、慌てて目を拭う。




ソッと振り返れば、桐生君がいた。



「え、」


幻覚?ともう一度目を擦るがやっぱり桐生君だった。


狼狽えていたけど、彼らしくない様子にふと我に返る。
桐生君はなんとも言えない表情をしていた。悲しげに、愛しげに、諦めたように、苦しむように、瞳の奥を複雑に歪ませて辛そうな無表情を作っている。