「ーー日莉」

「なあに?」




いきなり名前を呼ばれても焦る事が無かったのはずっと待ち構えてたからだ。


如月さんは慈愛に満ちた優しい目で桐生君を見つめている。


二人だけの空間を切り取ったかのように見つめあう二人に、私は一歩下がろうとした。


しかし手首を掴まれて後ろに下げた足を戻す。




「…俺は日莉の事が好きだった」




手首に巻き付く手に力が籠る。


桐生君は私を傍に置いたまま、如月さんの前に立って堂々と告白をした。


この二人のツーショットがやけにしっくり来るのは雰囲気が似てるからなのか。




「そう、ありがとう」




如月さんは言っていた通り、好かれていたのを知っているからか取り乱した様子は無く静かに頷く。


決別する事を分かっていたから、あっさりした返事。


でもふわりと浮かんだ微笑みのなかには哀愁なるものがあった。