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白くて小せえモコモコの雪だるま。
あの女はあれから毎日、あそこに居た。
男を眺める雪だるまを眺める、俺。
ーー椎名 花霞。
それが女の名前。

毎日毎日懲りる事無くやってくる。
それに気付いてる奴はいるのか。
あの女は異様に影が薄い。
もう少し華やかさがあれば、知名度はあっただろう。

遠目からガン見していれば、目があった。
ーーが直ぐに逸らされる。
あの潤んだ目をして。

分かったことが一つある。
あの女は、究極のビビりだ。

常にソワソワして俯いている。
縮こまると小せえから余計気付かない。

ーー畜生。ふざけんな。



「(可愛いとか、どうかしてんだろ、俺)」



変な気持ちが沸き上がる。
あの小せえ奴を守りたいとか。
可愛いとか。

ただの錯覚だと思いたい。
あれだ、小動物を見て可愛いと感じるあれと同じだ。
きっとそうだ。

そして一年後、膝を抱えて泣く女に出会う。



「…っすき、だったのに…

小田切君のこと…

…っずっと…

ずっと好きだったのに…!」



アイツを思って泣く女なんて視界にも入れたくねえ。
泣き声も耳障りだった。

影から睨み付けた時ふと気付く。

それはあの雪だるまだった。

初めは「また泣いてやがる」と呆れた。
しかしそれも苛立ちに変わる。

“また”乙樹かよ。

泣き喚く女の目に俺を映して見たくなった。

いつの間にか女の前に姿を現していて。
気付けば唇を奪っていた。
この女になら、利用されても悪くない。