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ーー彼女を初めて見たのは、いつだったか。

丁度一年前の事だ。

補習で学校に行った冬休み。
気紛れで立ち寄った体育館。
そこにはバスケ部期待のエースである乙樹がいた。
寒い中御苦労な事だ。

バスケ部の応援は二の次で乙樹だけを応援しに来てると言っても過言ではないギャラリー。

しかしこの寒さに堪えきれず帰って行くものが大半。
寒い寒いと騒ぐテメエ等は、走り回るバスケ部の連中が見えてねえのか。
どうせその程度だったって事だ。
苛立ち辺りを見てると、ギャラリーのなかに見知った顔があった。

見学スペースのベンチに座ってる女は俺に気付く気配すらない。真っ直ぐ、乙樹だけを見ている。



「…チッ」



寒さに苛立ち踵を返した。
体育館から聞こえるボールの音。

今は冬休みだ。
何が悲しくて学校に来なきゃなんねえんだ。
さっさと帰ろうと思った。
 
しかし、ふと目に止まった一人の女。

白いモコモコのコートにイヤーマフ。
見るからに小柄で、美少女。



「(…何、してんだ?あの女)」



二階の見学スペースに行くこともなければ、一階で群がるギャラリーに加わる事もない。
体育館の扉から、静かに見守っている。

明らかにそいつは浮いていた。

寒さに震える霜焼けの手を擦りながら真っ直ぐに乙樹を見つめている。



「(…誰だ、あれ)」



ほんの少し、興味が沸いた。
自分で言うのも何だが珍しい。
他人に興味を持つなんて。
とりあえず女の名前を知りたい。

しかしあの女が見つめる先にいるのが“また”乙樹だった事に、苛立った。

乙樹には日莉と言う彼女がいる。
故にそれは正しく叶わない恋。
あの女に対して、同情めいた想いが芽生える。


始めはただ、それだけだった。