「…お前も、俺から離れていくんじゃないかと焦っただけだ」



それは如月さんのことだろう。


痛いくらいに抱き締めてくる桐生君。


そんな彼を見上げて、頬に指を滑らす。瞬きを繰り返す彼の目は今にも滴が零れ落ちそうだ。


孤独で、切ない彼に、今度は頬ではなく、唇に口付けをする。


私達がキスするのは慰めに近い。でも今回は、少しだけ別の意味も混じっている。桐生君の不安を緩和するためとーーー生まれかけの、仄かな感情を表すため。


確かに私の中には、今まで気付けなかった灯が宿っている。揺らめくこの灯をどうして良いのか分からないけど、このまま、孤独の海に溺れる桐生君を放っておくのだけは許せなかった。



「桐生君、大丈夫だよ」



そっと囁けば、交錯する視線。傷付いた彼は、どこか泣き出す寸前の眼差しに近い。いつも俺様で飄々として本音を出さない彼の脆い部分が、露見しているように思えた。


それは私を認めてくれているからなのか、偶然なのかは分からない。それでも、確かに今彼は私に頼ってきているのだ。弱さを、見せて。



「私が傍にいるから」



何とも陳腐な響きだった。


もっと素敵な言葉を並べたいのに、ボブギャリーの貧しい私の口からはありふれた言葉しか出てこない。