「なんだよ、それ…。」

ユウが水野のストレートな言葉に戸惑っていると、水野は悪びれた様子もなく笑う。

「高梨先輩、片桐先輩とケイトがイチャイチャしてるの見て寂しそうだったんで。」

「イチャイチャなんてしてない。」

「あれ?僕の気のせいかな。片桐先輩って、すごい神経してますよね。奥さんの前で他の女の人とベタベタしたりキスしたりして。僕は無理だな。」

「オレからしたんじゃない。」

「一緒でしょう。じゃあ片桐先輩の前で、僕から高梨先輩にキスしてもいいんですね?」

「いいわけないだろ!!」

ユウが思わず声をあげると、水野は呆れたように肩をすくめた。

「勝手だな…。高梨先輩が泣くわけだよ。」

「レナが…泣く?」

「片桐先輩って、奥さんのこと、全然見てないんですね。」

「えっ…。」

「高梨先輩のこと、全然わかってない…。」

水野はビールを飲み干して席を立った。

「じゃあ、失礼します。またライブ会場で。」


水野が去って一人になると、ユウはタバコに火をつけ考える。

(レナが…水野の前で、泣いてた…?)

レナが仕事場で泣くとは思えない。

二人は仕事以外で会っていたのだろうか?

(だんだんわからなくなってきた…。)


“奥さんのこと、全然見てないんですね。”


“全然わかってない…。”


レナのことは、ずっと見てきたはずだし、誰よりもわかっていると思う。

少なくとも、水野よりはわかっているはずだ。

(それとも、オレの知らないレナを、水野は知ってるのか…?)