総司はある晩、ひどくうなされ、目を冷ました。
夢をみた。
その夢はというと、蒼祢を自分の手で斬っていたというものであった。
総司は飛び起きると額にうっすらと浮かんだ汗を手で拭った。
先日、近藤と土方に呼ばれた総司は二人のある提案に目を丸くした。
いきなり総司を呼びつけたと思えば、
「総司、嫁をめとらんか。」
と近藤が言ったからである。
総司は驚いて目を丸くしたものの、すぐさまいつもの陽気な総司に戻ると続け様にこう言った。
「やだなぁ、近藤さんも土方さんも。私はまだそんな気なんてありませんよ。」
と笑ってみせた。
しかし近藤はそんな総司の話など聞きもせず、話をはじめた。
「あるお久家さんの娘さんが、どうもるお前を見初めて、是非にと言っておるようでな。」
総司は再び目を丸くした。
実はこういった話であったのだ。
先達て祇園で火事があった。その時に逃げ遅れた一人の女を助けたことにより、
向こうが見初めて『是非に』と向こうから近藤に話を持ちかけてきたのだ。
しかし総司はというと、
「あの時に斬った男は覚えているのですが。」
と言い話を反らした。
名の知れた久家の娘さんだといい、
「とにかく縁談だ。」と言い引かない。
そんな近藤に総司も
「お断りしてください。」
言うと部屋を出た。
土方は総司の後を追った。
「何故だ。ほかに惚れた女でもいるのか?」
と土方は総司の肩に手をかけた。
一瞬なぜか総司の頭の中に蒼祢の顔が浮かんだが、総司はすぐさま消しさると土方に笑ってみせた。
「いませんよ。ただ嫁をとる気がしないだけです。」
土方はそんな総司の後ろ姿をじっと見つめていた。
それから土方は部屋に戻ると近藤が呟くように言った。
「歳よ。こんなご時世だ。いつ何があるとも限らん時だ。
総司には少しでも早く身を固めて跡継ぎを作ってほしんだよ。」

