ワンルームで御曹司を飼う方法


「……み、皆さんは風邪をひいた事ってないんですか?風邪って、確かに重い病気じゃないし薬を使えばすぐにでも熱は下げられるけど……でも、すごく気持ちも辛くなる病気ですよね……?

あったかいお布団で寝たいって、汗を拭いて清潔なパジャマ着てゆっくり横になって、すりおろしたリンゴやスポーツドリンクで少しずつ水分補給して、あったかいうどんやおかゆが食べたいって。自然にそう思っちゃう病気ですよね。

社長は……そうやって風邪を治してもらった事あるんですか?そうやって、ちゃんと人間らしく看病された事ってあるんですか……?」

 聞くまでもない。生まれた時から結城財閥の第一後継者として何もかもを動物みたいに管理されていた彼が、そんな庶民くさくて、でも人間味のある看病をしてもらった事など、きっと無い。

 そしてそれは、スーツの人たちの表情が雄弁に物語っていた。

「お願いです……休ませてあげて下さい。1日とは言いません、半日だけでもいいんです。彼はメンテナンスをすれば直るロボットじゃないんです、人間なんです。お願いです。どうか……彼を人として扱ってください」

 涙を滲ませながら深々と頭を下げた私に、スーツの3人が困惑した表情で顔を見合わせた。

 たかがいち庶民の私に、こんな事を言う権利が無いのも分かっている。

聞き入れてもらえる可能性は無くても、それでも頭を下げ続けた。

 けれど。

「……充様の端末に連絡をしろ。外まで出てきてもらえばお連れする事が出来る」

 1番背の高いスーツの人が痺れを切らした口調で、女性の人に向かってそう指示した。

 部屋の主である私が拒み続ければ、この人達は部屋に侵入して社長を連れて行くことは出来ない。不法侵入で立派な犯罪になってしまう。

 けれど、社長が一歩でも外に出てきたなら別だ。私の許可など何もいらない。止める事は出来なくなる。

「ま、待って下さい!」

 慌てて声を荒げ、とっさに女性の腕を捕まえてしまった。こちらの剣幕に皆、驚いた顔をする。

 ――その時。

「何を揉めている。その方は丁重に扱うよう指示した筈だぞ」

 近くに停めてあったリムジンから眼鏡を掛けたひとりの男性が出てきて、こちらに向かいながら厳しい声で言った。