ワンルームで御曹司を飼う方法


「充様の体調は常時把握しております。20分ほど前から発熱が認められ脈も乱れています。風邪をひかれている事は承知済みだったので、状態の悪化を懸念して既に病院へ搬送の手配は済んでおりますので」

「な……20分前に発熱って……どうして知ってるんですか?」

「充様はいずれ結城財閥の全てを任される大切なお方です。我々の監視外にいる時は緊急時にすぐ対応できるよう、常に身に付けているものから情報収集が出来るよう手配致しております。以上から23時45分のバイタルチェックにより、体調の異常が認められましたので、速やかに病院への搬送を行う次第です。どうかご理解を」

 ……きっと、社長と生活してる以上は部屋の監視はされてるだろうぐらいの予想はしてたけど。まさか、彼の身に付けている物にそこまで情報収集機能が備え付けられてたなんて。

 正直、私はそれを聞かされて不快に思った。

 社長の身体がとても大事なのは分かる。けれど、それじゃあまるで飼育され管理されている動物だ。

 彼は慣れているのかもしれないけれど、なんだか人間味を感じない。どこにいても何もかも徹底管理されて。籠から飛び出したところで結局はもっと大きな温室で飼われてるだけの、自由の無い鳥みたいだ。


 けれど、無機質に感じられてもこの人達なりに心配をしてるのかもしれない。社長の具合を心配に想う気持ちはきっと同じだ、と思い直して口を開く。

「あ、あの。だったら、今むやみに病院に連れて行くのは却って良くないんじゃないかなと思います。外は寒いし……きっと悪化しちゃいますよ。だったら家で薬を飲んでしっかり休ませた方がいいと思います」

 なのに……スーツの人が返した言葉は、私の神経をますます逆撫でた。

「お気遣いありがとうございます。けれど、本日の朝6時までにバイタルを通常数値まで戻さなければなりませんので緊急性が認められます。病院では結城の医療チームが既にスタンバイしております。どうかご理解を」

「……な……なんなんですか、それ……」

 こんなに真剣な怒りが湧いたのっていつぶりだろう。自分で声が震えたのが分かった。