たかが風邪、されど風邪。
時計の針が0時を少し過ぎた深夜。私は社長の咳き込む音で目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
起き上がって電気をつけ、慌ててキッチンから水を汲んできてあげる。
「……んー、悪いな」
苦しそうにしながらコップを受け取った社長の顔色はさっきより随分と悪い。汗も掻いているようで、額に髪が貼り付いている。
「……ちょっとすいません」
私はそう言ってから彼のおでこに手を伸ばした。
「熱い……」
掌に伝わった想像以上の熱に、驚いて手を引いてしまう。
どうしよう、結構熱が高い。このまま放ったらかしていい状態じゃない。
苦しそうに咳き込んでは肩で息をする社長の汗を手元のタオルで拭ってあげると、私は急いで立ち上がって洗面所に行ってから洋服に着替えた。
「ちょっと待ってて下さい。薬とかスポーツドリンクとか色々買って来ますから」
去年は幸いにも風邪をひかなかったせいで、常備薬も何も今の我が家には無いのがもどかしい。
とにかく、風邪を治すためのあれこれを揃えなくてはと思い、私はコートを羽織り財布をポケットにつっこむと慌てて家を出た。



