ワンルームで御曹司を飼う方法


「どうかしました?疲れてるんですか?」

「あー、近寄るな。ちょっと風邪っぽいんだよ」

 心配して近付こうとした私を、社長は拒否するように片手を上げて手の平を向けた。そして、顔を背けてコンコンといかにものどが痛そうな咳をすると

「うつるから近寄るなよ」

 そう言って、上げていた手でシッシと追い払う仕草をする。

 近寄るなって言われても、こんな狭い部屋でそれは無茶だ。気遣ってくれてるのはありがたいけど、もはや一緒に住んでる以上、よっぽどの病気じゃなければうつったとしてもある意味仕方ない。それが一緒に暮らす仲ってものだと思う。

 社長は重たそうに身体を立ち上がらせると、心許ない足取りで洗面所に向かった。いつもよりしっかりと手洗いうがいをしている音がするけど、遅いんじゃないだろうか。

 ついでに着替えて戻ってきた彼に、温かい緑茶を淹れてあげる。カテキンやビタミンが風邪対策に良かったような気がするんだけど、これももう遅いだろうか。

「最近ぐっと冷え込んできましたもんね。季節の変わり目は風邪ひきやすいから」

「あー身体ダルい……お前も気をつけろよ、今年の風邪はたちが悪いぞ」

 本当にしんどそうにしながら、社長はいつもより随分遅いペースで晩ご飯を食べた。食欲もあまり無さそうだ。

 いつもみたいに飄々として余裕たっぷりの彼しか見たことが無かったから、なんだか弱ってる姿がいっそう痛々しい。

 それに、社長はここ2、3日随分忙しかったから。朝は5時前に出て夜は11時過ぎに帰ったり、海外出張で帰宅しなかった日もあった。気候の急激な変化もあるけど、疲れが溜まってたせいで風邪をひいたのもあるんじゃないかと思う。

「社長、疲れて体力が落ちてたんですよ。りんご剥いてあげますから、しっかり食べてよく休んでください」

 晩ご飯の食器を片付けながらそう声を掛けたけど、やはり疲れてたのか風邪でしんどいせいか、社長は壁にもたれかかったままうたた寝をして「んー……」と寝言のような生返事をするだけだった。