***
それから数日後のことだった。
「今日は冷えるなあ……」
めっきり夜は冬の気候になり、私は暖房の節約のため少しでも身体が温まるようにおろし生姜をたっぷり入れた晩ご飯のスープを作っていた。
茸に根野菜、それに鶏団子をひとつずつ作って入れていく。程よく煮えてきた頃、小皿に掬って味を見たらなかなか美味しかった。
「よし、これなら社長も喜ぶかな」
コンロの火を消し壁掛け時計を見上げれば間もなく21時。いつもなら、もう帰ってきてもいい時間だ。
と、そのとき丁度部屋の前でリムジンのエンジン音が聞こえる。社長のお帰りのようだ。
彼はいつもシャワーを浴びてから晩ご飯を食べるので、その間にもう一品作ろうかなと、私は冷蔵庫から自家栽培で収穫した小松菜を取り出した。何にしよう、胡麻和えがいいかな。それともお浸し……あ、ジャコと炒めようかな。
そんな風に考えていると玄関の扉が開き、ヒュっと外の冷気が部屋に入り込んでくる。
「おかえりなさい、お疲れ様です」
いつも通りの帰宅風景。キッチンに私が立っていて、社長が「ただいまー」って呑気な声で部屋に入ってきて……の、はずだった。
「ん……ただいま」
社長の様子がいつもと違う。なんだか渋い表情をしたまま部屋に入ってくると、コートも脱がずにダルそうにクッションに座り込んでしまった。



