完全庶民の私の想像力では限界があるけれど、生まれた時から結城の跡取りとして扱われてきた彼に、まともな人の情を受ける生活はあったのか少し疑問に思う。
家族が恋しいとか、友達が大事だとか、胸が痛くなるほど誰かを好きになるとか、そう云う心を学ぶ機会はあったのだろうか、と。
……けど。
社長は優しい。それだけは確かだ。臆病だった私にたくさんのおせっかいを焼いてくれただけじゃなく、失恋の痛みまで一晩中受けとめてくれた。
横暴だけど、強引だけど、彼は確かに人を思いやる心を持っている。
けれど、だからこそ。もしかしたら彼が確固たる愛情に触れたことの無い生活を送ってきたかもしれないと思うと、なんだか切ない。
「……社長」
「んー?」
私の呼び掛けに生返事で答える横顔を、優しく撫でてあげたいなんて馬鹿げた事を思ってしまった。
……私、ちょっとどうかしちゃってるな。抱きしめられて彼の温もりを知ってしまった事で、妙な親近感を持ってしまったのかもしれない。
「お茶のお代わり要りますか?今淹れますね」
「おう、サンキューな」
私は座布団から立ち上がると、彼を慈しんで撫でてあげる代わりに、キッチンスペースへ向かい温かいお茶を淹れてあげる事にした。



