「えっ……あ、ひ、久しぶり」
想像もしていなかった来客に動揺を露にしてしまう。
ぶっきらぼうな蓮は昔からこんな風にアポ無しで私の元に訪れる事が多い。それは、私が上京してひとり暮らしを始めても変わらなくて。
それでも今までは何も問題は無かった。私はひとり暮らしだったし、大して出かける事も無かったから、蓮の来訪に居合わせない事も無かった。
……けれど……今は――
「昨日から出張でこっち来てて。明日の朝帰るから、その前に灯里の顔見ていこうと思った」
「そ、そうなんだ?ありがとう……」
蓮はいつものように淡々とそう言って、手土産と思わしき地元のお菓子屋の紙袋を差し出してきた。
それは私の好きな故郷のお菓子で、蓮は東京の出張に来るときは必ずそれを持って私の元を訪れてくれた。
そして、受け取った私を見て少しだけはにかむように笑ってくれるのも、いつもの事。
そんな蓮の優しさが、今までは胸が締め付けられるほど嬉しかったのだけど……。
いつもならこの後すぐ部屋にあがってもらうのに、今日はどこか様子のおかしい私に気付いた蓮が、ふと肩越しに部屋を覗き込む。
「あ、ごめん。誰か来てた?」
そう尋ねた蓮の表情が明らかに驚きを含んだ瞬間、私はかつてない焦りと初めて知る激しいショックを感じた。



