視線をパッと鍋の方に向けガス台の火を消すと、私はテーブルに卓上コンロをセットしそちらに程よく煮えたすき焼きを移した。
「宗根。玉子、玉子」
「はいはい、言っときますけど玉子はお代わり無しですからね」
「えー?マジかよケチ~」
「玉子1個で明日の朝ごはんの目玉焼きが焼けちゃうんですよ?玉子は貴重なんですから」
「玉子が貴重とか戦時中みたいだな」
そんなお互いの価値観がぶつかり合う会話ももはやすっかり慣れたもので割と楽しい。
すっかり整った食卓にふたりで座り、久々のご馳走に「いただきまーす」とニコニコと手を合わせたときだった。
――ピンポーン。
部屋に響くインターホンの音に、社長があからさまに苦々しい顔をした。
「誰だよ、これから飯だって時に。兵藤か?狩野か?うちのSPか秘書だったら追い返せ」
まるでご飯の待ちきれない子供みたいな様子に思わず苦笑いを零しながら立ち上がり、「先に食べてて下さい」と告げてから玄関に向かう。
時間はまだ夜の8時。この時間なら友達でも宅配でも何が来てもおかしくない。
誰だろうと思いながら玄関のサンダルに片足を入れドアを開くと――
「…………蓮……?」
「久しぶり」
顔を見たのは数ヶ月ぶりだろうか。
少しだけ懐かしくて胸を締めつける私の幼なじみが、スーツ姿で玄関の前に立っていた。



