イサミちゃんと、もうひとりの幼なじみである芦屋蓮。彼は子供の頃から口数の少ない男の子だった。
女の子みたいに可愛い顔をしているのにあまり愛想がなくて、周囲にはとっつき難いと思われてたみたいだけど、本当は違うって私は知ってた。
蓮の感情表現は不器用だけど、いつだって頼りない幼なじみの私を心配してくれて、さりげなく優しくしてくれて。
高校生の頃、自分の意思がない事に悩んでいた時
『灯里のそういう人間らしい弱さ、俺は嫌いじゃない』
そんな風にぶっきらぼうに慰めてくれたこと、今でも覚えている。
きっとその頃からだ、私が彼への恋心を自覚するようになったのは。
けれど、そんな蓮の優しさに気付いていたのは私だけじゃなくって……気が付けば彼の隣にはもっと近しい理解者がいた。
今までイサミちゃんと私しか知らなかった蓮の素顔が他の女の子に向けられるのは少し悔しかったけど、でもそれでもいいと私は思った。
だって、彼女が出来ても蓮は優しかったから。ならば、この幼なじみと云う関係のまま彼の側に居られた方がいい。臆病だった私はそうやって自分を納得させた。
ほのかな嫉妬と、淡く静かな恋と。それはいつしか日常のように私の中に植え付き、10年近く経ち遠く離れてしまった今でも、胸の奥に抱き続けている。
もしかしたら、私は一生この穏やかな恋を続けるのかもしれない。
それってきっと、普通の人から見たらもどかしくて不幸なのかも知れないけど、でもなんだか自分らしいなと苦笑もする。
きっと将来、蓮が他の誰かと結婚しても私は心の奥で彼を想うのだろう。私の恋はそれでいい。
――そんなささやかな希望を叶えるのは容易かったはずだ。数ヶ月前ならば。
この穏やかな恋に思いもよらない強制終了が訪れたのは、冬も間近に迫ってきた冷たい雨の日のこと――



