けれど。勇気を出して聞いた私の質問に、充は分かりやすいほどキョトンとした表情を浮かべた。
「あれ、お前知らないの?俺、次期総会長の継承放棄したの。だから婚約もそのまま弟の颯が受け継ぐし、俺はもう継承関係は完全に蚊帳の外みたいな?」
ものすごーく軽い口調でものすごーい重大な事を暴露され、私は衝撃のあまり声も出なかった。
次期総会長辞退は知っていたけれど、それって軽々しく聞くのを躊躇うほど深刻で、どうやって切り出そうかとさえ考えていたのに。
しかも私と彼の関係を一番阻んだ問題であるはずの継承問題が、完全に蚊帳の外って……。
「次期総会長辞退は知ってましたけど……。こ、婚約なくなっちゃんですか?」
そもそも健康にもなんの問題もないどころか、意欲的に新しいプロジェクトに着手してる充がどうして時期総会長を辞退したのか全く見当が付かない。
驚きと疑問だらけの私にふと視線を送ると、充はソファーに深く座りながらあっけらかんと笑って言った。
「俺さ、子供出来ない身体みたい。三年前の健康診断で発覚したんだよね。結城は一族経営の世襲制だからな、子孫を残せないヤツは用無しってワケ。当然総会長にもなれないし、それこそ政略結婚なんて無意味だろ」
明るい声で言われた次期総会長辞退の真相に、私は言葉を失う。
彼の意思ではなく、そんな悲しい理由での辞退だったなんて――あれだけ尽力してきた人生を、本人の力ではどうにもならないことが原因であきらめざるを得ないなんて。あまりの衝撃と悲しさに、私はなんて言葉をかけていいか分からない。
けれど、充は平気な顔をして手元のコーヒーを飲むと、いつものように飄々と話し続けた。
「そんな、いかにも『ショックです』って顔するなよ。おかげでコンツェルンのクソ面倒くさい役員からも外れられたし、前に比べてだーいぶ自由度も増したんだぜ。監視もそうとう減ったし。何より前の立場のままだったら『Y-Connect』にだって着手出来なかったっつーの。いいことだらけだけどなあ」
「で、でも……お爺さんは充に結城を継いで欲しかったんじゃ……」
彼が無理してるのではないかと思うと切なくて、私は余計な事と分かりつつもお爺さんの話題を出してしまった。祖父の意思を継げなくて苦しい思いをしてるのならいっそ吐き出して欲しい。今度こそ、彼の素直な悲しみを受けとめてあげたいから。けれど――。



