社長はいきなりの来客に目を丸くしたけれど、私が彼女がイサミちゃんだと説明すると納得した顔をして、さらにイサミちゃんが泣いていることに気付くとケーキを持って大人しく部屋の隅へ行った。
「イサミちゃん、どうしたの? 何があったの?」
イサミちゃんをクッションに座らせながら、彼女の涙を拭う。そのあまりにも覇気のない表情に胸がズキズキと痛んだ。
だって――イサミちゃんのこんな弱々しい姿を見るのは初めてだもの。
彼女はいつだって強くて明るくて、わたしの憧れだった。溌剌としていて、どんな困難にだって正面から立ち向かって。私は何度そんな彼女に励まされ、慰められ、助けられてきただろう。
委員長や班長なんかのリーダーシップを常に取っていたイサミちゃんは、よく言っていた。大人になったらかっこいいリーダーになるんだって。仕事でバンバン出世して、男の人や年上の人も従えるようなかっこいい女になるんだって。
『イサミちゃんなら絶対なれるよ』。彼女の夢を聞く度に、私は胸を弾ませてそう言った。凛々しく前を見据えるイサミちゃんの夢に、私はそんな彼女の幼馴染である誇りと……きっと、自分の夢を重ねていたんだ。
憧れてやまない存在。私もこんな風になりたかったって何度思っただろう。
そんな、強くて明るくて頼もしいイサミちゃんが――今は弱々しく肩を震わせて泣いている。
それは私にとってあまりにも衝撃的な光景だった。そして。
「……灯里……助けて……私、もう駄目……」
ボロボロと涙を零しながら子供みたいに取り縋って泣く姿に、私はどうしていいか分からずただ彼女を抱きとめ髪を撫で続けるしか出来なかった。



