「あの……」
どうしたらいいのか分からないままそう呟いた時、
「席着けよー!ホームルーム始めるぞー!」
教室全体に先生の声が響き渡った。
その声にヤベッと声を上げた圭祐が素早く立ち上がり、自分の席へと戻っていく。
「せ、瀬戸くん?」
「………チッ」
舌打ちをされたかと思いきや、するりと離された手。
「あ……」
瀬戸くんはそのまま私の方を見ることなく自分の席へと戻っていった。
椅子へ腰を下ろすなり机へと体を伏せた瀬戸くん。
寝るということは今日も朝から海へサーフィンをしに行ったのだろう。
……そうだよね。もうすぐ大会だもんね。
瀬戸くん、言ってた。
“学校に行く時間すらもったいねぇよ”って。
……ごめん。ごめんね、瀬戸くん。
もう一日だけ。
今日だけでいいから瀬戸くんと一緒にいたい。
ワガママだって分かってる。
自己中だって分かってる。
瀬戸くんが大会前だってことも分かってる。
だけど、瀬戸くんともう一度泳ぎたいの。
ごめんなさい。
最後にするから。
今日の二時間、私に下さい。
さっき触れたばかりの右手をギュッと握りしめ、見えない瀬戸くんに向けてそう願った。