「そうか....深い事情があるようだね」

すると、そこに、一匹の大きな黒い犬が青年の前へやって来た。

その犬、腹部に包帯が巻きつけられており、怪我をしている様子だった。

青年は、犬の前に近づくとゆっくりとしゃがみ、犬の目線に合わせた。

「おい、ロイ。無理をするな。寝ていたまえ」

すると、素直に従った様で、黒犬のロイはその場で横になった。

「何があったの?」

その、可哀想なロイを見詰めながら同情するように、エリーは言う。

すると、ため息をついてから青年はエリーの向かえ側の椅子に座り込み、言った。

「ロイは、ある死神の奴隷にされていたんだ。....可哀想に。俺が、森へ狩りに行っていた所、ちょうどその頃、死神の連中は、何かの命を頂くために、森へ来ていたんだ。そこで、ロイがひでぇ扱いをされているのを見かけてな。鞭だの、足だので、叩き付けられていたよ。まあ、酷い有様だった....。それで、俺はとっさに、死神が目を離した隙にロイの首輪を外したんだ」

「そう....」

エリーは、心配したように青年と黒犬のロイを交互に見ると、再び口を開いた。

「そのある死神とは?」

「....ここだけの話だぞ」

静かな重たい口調で青年はそう言った。

「鋼鉄のクローだ。....奴は、俺の両親を呪い殺すばかりか、ヤクト中に病原体をばらまきやがったっ」

「何ですって......では、町の人達は?」

「明日、その目で見るといい。もう、俺は疲れてしまったよ。今日は、ゆっくり眠らせておくれ」

そう言うと、青年は立ち上がる。

「あっ....ごめんなさい」

「俺の名前、シルバ。覚えておいて」

そう言って、シルバはにこやかに笑うともう一部屋しかない狭そうな部屋へと行った。

しかし、何かを思い出して足を止めるとその場でシルバは言い出した。

「君の寝床を用意し忘れていたね」

そしてシルバは、くいっとこちらを振り向いた。

「悪いのだが....そこのソファーに置かれてある毛布しかない。君は、そこのソファーを使っておくれ。本当に、申し訳ない」

言いにくそうにボソボソと、そういい残すと、そのまま彼は部屋へ行ってしまった。

「....仕方ない」

ぽつりと呟いて、エリーはソファーに横たわり毛布を被った。