私は土方さんに付いてしばらく廊下を歩く。

立ち止まった土方さんは部屋の主に声をかけ、中に入っていった。

「総司入るぞ。」

「いいですよ。」

「総司。こいつの刀と袴を買いにいくついでに町を案内してやってくれ。」

「わかりました。お金はもちろん土方さん持ちですよね?」

「ああ、そうだ。今から行ってきてくれるか。」

「はい。」

土方さんと沖田さんは、私のことを無視して先に話を進めていく。

「それじゃ行こっか、桜ちゃん。」

沖田さんに手を引かれ、断る暇もなく屯所の外へ連れて行かれた。

刀屋に着くと同時に沖田さんが刀屋の主人に話しかけられていた。

「兄ちゃんえらい美丈夫やのう。」

「そんなこと無いですよ。」

沖田さんとご主人のやり取りを見ていたが終わる気配がなかったので仕方なく刀が置いてある棚を見る。

「いらっしゃい。よう見てってや~。」

後ろから声をかけられ振り向くと、刀屋の奥さんが笑みを浮かべていた。

目線を棚に戻し、しばらく眺めているとどうしても目が離せない刀があった。

藍色の柄にはらはらと散っていく桜を描いた物であった。

「あの、すいません。」

「刀決まりましたかい?」

「この桜柄の刀いくらでしょうか。」

「この刀は抜けませんよって。刀が主人を選ぶ妖刀らしいんですわ。
やから買うのはむずかしいんちゃいますか。」

そんなのやってみなきゃ分からないよね。

私はその刀を抜いてみる。

スー

あまり力を込めずに鞘から抜くことができた。

「あの抜けましたけど。」

「えー!抜けましたん!?
それうちに置いといても誰も買いまへんからお代は結構ですよ。」

「そんな、ちゃんとお金は払います。」

「本当にいいんです。店としての気持ちということで受け取ってください。」

「ではお言葉に甘えて。」

そう言うことで刀を貰ってしまった。

刀が主人を選ぶか。

「不思議なこともあるんだね。」

いつの間にか隣に立っていた沖田さんが声をかけてきた。

「はい、そうですね。本当に不思議です。」

その少しの沈黙を破ったのは沖田さんの声だった。

「土方さんのせいで朝餉食べ損ねちゃったし、腹ごしらえしてから袴買いに行こうか。」

「そうですね。」