「初めまして。俺は山都 ヤマト。桜さんだよな?
本当は俺の方から出向かなければならないんだが、俺が里から出ると結界が無くなっちまうもんで。
すまなかったな。」

「いえ。私はこの里に来て初めて純粋な笑顔の鬼を見ました。
明るくて良い里ですね。私の里もこんなだったのかな。」

私はそう言って、真剣な顔をして山都さんを見た。

「それで私に会いたがっていた理由は?」

「君の兄の荵についてだ。荵は人間を滅ぼそうと考えているそうじゃないか。
それに柊、天羽、小鳥遊家の頭領たちも。君はどうなんだい?」

「私は...」

私はどうなのだろう。兄さんのところにいたのは、鬼の本能、それと彼らと一緒にいたかったからだ。
だが今は刀から流れてきた言葉も何も聞こえない。今私は人間を滅ぼしたいなどとは思っていない。
それどころか、その人間、いや土方と一緒にいたいと思っている。

「今の私は人間を滅ぼそうなどと考えてはいない。
それに人間の男に恋をしている。先ほどこの思いに気付いた。」

私がそう言うと山都さんは

「そうか、良かった。
鬼は人間より力が強い。だからその力を利用されないように隠れて過ごしてきた。
だが人間に恋をした一人の男鬼が里から出て、その人間に里の場所を教え、人間は里の鬼を狩り尽くした。人間を信じすぎたゆえにに起こった悲しい出来事だ。
その一部は君も聞いただろう?君の持っている刀を作った鍛冶職人の話だ。
それから人間とは今まで以上に距離を作った。
だが君は少なくとも男鬼が恋をしたような愚かな人間を好きになったわけじゃなさそうだ。
幸せにな。」

山都さんはそう言って部屋を出ていった。

私もそれからほどなくして屋敷を去った。