☆☆☆
仁科さんの家へ戻ったあたしは、仁科さんにあの日、何故あたしが海辺で泣いているのか話すことにした。
「沢井基樹は…あたしの、彼氏だったんです……」
「アイツが……?」
「はい…。
でも、好きな人が出来たって振られて。
あたし、寂しかったんですけど…。
仁科さんに出会って、恋じゃなかったのかなって思いました」
「どういう意味……?」
「あたし、仁科さんの手を掴んだり背中に抱きついたり…。
自分では信じられないこと、沢山やっているんです。
基樹には絶対出来なかったようなことを……。
だからあたし、基樹のこと…好きじゃなかったのかもしれません」
基樹に抱いていたのは……そう。
「憧れだったのかもしれません……」
誰にでも好かれる、基樹に対する憧れ。
だから話しかけられた時も、挨拶を交わす時も、嬉しかったんだと思う。
憧れの基樹に近づけたんだから。
それをあたしは恋だと勘違いして。
だけどそれはあくまで“勘違い”でしかなくて。
あたしは基樹に素直に甘えることが出来なくて。
そのせいで、別れてしまったんだ。


