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仁科さんの家へ戻ったあたしは、仁科さんにあの日、何故あたしが海辺で泣いているのか話すことにした。




「沢井基樹は…あたしの、彼氏だったんです……」

「アイツが……?」

「はい…。
でも、好きな人が出来たって振られて。
あたし、寂しかったんですけど…。
仁科さんに出会って、恋じゃなかったのかなって思いました」

「どういう意味……?」

「あたし、仁科さんの手を掴んだり背中に抱きついたり…。
自分では信じられないこと、沢山やっているんです。
基樹には絶対出来なかったようなことを……。
だからあたし、基樹のこと…好きじゃなかったのかもしれません」





基樹に抱いていたのは……そう。






「憧れだったのかもしれません……」





誰にでも好かれる、基樹に対する憧れ。

だから話しかけられた時も、挨拶を交わす時も、嬉しかったんだと思う。

憧れの基樹に近づけたんだから。



それをあたしは恋だと勘違いして。

だけどそれはあくまで“勘違い”でしかなくて。



あたしは基樹に素直に甘えることが出来なくて。

そのせいで、別れてしまったんだ。