巡逢~茜色の約束~

味付けが上手くいっても、卵焼きを焦がしても、食べるのは自分一人。

作り過ぎた料理を捨てる度、心が荒んでいくような気がしてた。

それでも歯を食いしばって、打ち込むべきものに向かい合って。

夢を──白球を追う間だけは、自分らしくいられたのに。



──『なんでお前なんだよ……!』

ズキンと、右肩が痛む。



「……くだらねえこと思い出した」



これ以上考えないように、頭をわしゃわしゃと掻いた。

あんなこと、思い出したって苦しいだけだ。



小さく息を吐いて、キッチンへと足を踏み入れる。

カウンターから覗き込んだ時計の針が指していたのは、7と8の間と、6。



「遅刻だな、こりゃ」



徒歩で行ける距離だけど、今からお粥作ってたら、間に合わない。

かといって体調の悪い美生を置いて走るほど、学校に何かがあるわけじゃないし。